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政策ライブラリー
西宮市大谷記念美術館のあり方
【2023年3月定例会 一般質問④】
西宮市大谷記念美術館は、市が大谷竹次郎氏から土地・建物、美術作品の寄贈を受けて1972年に開館した美術館です。土地は市が所有、建物・美術品は公益財団法人西宮市大谷記念美術館が所有し、市は財団に対し毎年、運営補助金や施設改修補助金を支出しています。公設の美術館という構造上、市の財政支出なしに運営することは一般的に困難ですし、市が文化・芸術分野に一定の予算を割くことに異論もありません。一方で、市が密接に関わり、公金を支出する美術館である以上、健全な財政基盤を確立したうえで、持続可能な運営が求められます。
≪資料4≫をご覧ください。大谷美術館の2016年度以降の収支状況をまとめたものです。下から3行目の収支差額が例年マイナスとなっている中、2016年度のみが2,100万円のプラス。これは、自己収入が他の年の倍近い約6,700万円となっているためで、最大の要因は「マリメッコ展」が人気を博し、約5万人の入館者を集めたことです。その他の年においては、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展のみが2万人台の集客となっており、大谷美術館は一部の人気展示で確保した収入で、他の赤字分を補填するような収支構造であったといえます。こうした運営手法に限界が訪れたのが、2019年度の終わりでした。当初予算ベースで2019年度末の次期繰越額、下から2行目が0円という危機的な水準となり、例年1億4,000万円程度で推移してきた運営補助金を、2020年度当初予算で約1億6,900万円、約3,000万円も上乗せしたのです。この経緯は2020年2月6日の民生常任委員会所管事務報告「公益財団法人西宮市大谷記念美術館の経営状況について」で示され、大きな議論を呼びました。資金不足に陥ったら、その都度、市が不足分を補填する。補填する額が際限なく増えていく。そんな状態に陥ることを私は強く危惧しています。施設改修補助金も年間1,500万円~5,000万円程度が支出されており、今後は老朽化に伴う金額の増大が懸念されます。
市は2021年2月4日の民生常任委員会所管事務報告「公益財団法人西宮市大谷記念美術館の運営改善について」において「一定の財政的な枠組みのなかで単年度収支を均衡させることが重要」との見解を示しました。その考え方には賛同しますが、収入の多くを補助金が占めている以上、ポイントは「市がいくらまでの補助金支出を許容するか」に尽きます。同じ所管事務報告の中で、市は「大谷記念美術館への補助額の水準は、一時的に資金不足を解消するために大幅な増額を行った2020年度の補助額を例外的な措置としたうえで、ここ5年程度の市の補助額を、安定的な経営を目指すための財政的な枠組みの目安とすることが望ましいと考えられる。」としていますが、市の厳しい財政状況をふまえれば、さらなる経営努力が必要です。また、施設改修補助金については年度ごとのバラつきが大きく、この一文だけでは目指す水準を把握できません。市は補助額の上限を明示するとともに、その金額を超える場合には、施設のあり方や運営体制を抜本的に見直す必要があります。
引き続き、≪資料4≫をご覧ください。2021年2月の所管事務報告で掲げられた24項目の運営改善策について、このたび進捗状況をヒアリングし、取りまとめた一覧表です。こちらを確認しますと、企画展の回数や料金体系の見直し、喫茶スペースの運営形態変更など、取り組みが進んだ項目もありますが、改善策の提示から2年たった今でも、具体化していないものが多く存在することが分かります。例えば、⑥西宮ゆかりの事業の充実や、⑱入館料以外の収入事業のうち図録・関連品の販売は、以前から行われていた施策をそのまま記載しただけであり、運営改善策の策定以降に回数が増えたり、目新しい取り組みが行われたりした様子はありません。⑦コレクション情報のデジタル化によるデータベースの充実も、2017年度からすでに実施されており、特段、2021年度以降に新たな取り組みは行われていないばかりか、アクセス件数すら把握していないとのことでした。⑨ホームページ・SNS等の連動と情報の多言語化や、⑰友の会制度の導入は、いまだ検討中の段階で、結論に至っておりません。⑭近隣市、県などとの連携事業は、あくまで協議や情報交換を行っているにすぎず、具体的な事業には結びついていません。㉒入館者数及び有料入館者率向上においては、「2020~2021年度にかけて前年度の10%以上の増」と肯定的な回答となっていましたが、これは2020年度の入館者数が新型コロナの影響で落ち込んでいたためであり、2019年度と比較するとむしろ減少傾向であることが明らかです。項目を多く並べることで、多様な運営改善策を進めているように見えるものの、実際に具体的な進捗がみられる内容は、一部にとどまっていることを指摘しておきます。
また、公設美術館としての役割を鑑みれば、大谷美術館が最も力を入れるべき分野は、市民に対して文化と触れ合う機会を提供することだと考えます。運営改善策にも「市民との接点を広げる」という区分が示されている通り、地域との結びつきを強化すれば公金を支出する意義も明確となりますし、市民が大谷美術館のファンとなることで、企画展等への広報・集客効果も期待できるはずです。一部の美術愛好家のみが訪れる場所ではなく、市民に親しまれる参加型の美術館を目指して、制作・講座・ワークショップ等を展開する、講堂や庭等の施設を地域に開放する、地域のイベントと連携する、といった取り組みを幅広く進めるべきです。
以上をふまえ、4点質問します。
①市が大谷美術館に対して支出する補助金は今後、運営補助金・施設改修補助金それぞれ、いくらを上限としますか。具体的な金額をお答えください。
〇答弁要旨〇
西宮市大谷記念美術館が、安定的な運営を行うために必要な運営補助金の水準については、令和2年度に、大谷美術館と類似する中核市規模の美術館や近隣の美術館の入館者数、職員数、支出総額などの調査を行い、その分析の結果、大谷美術館の運営状況は、極めて標準的であることから、市の補助額は、平成27年度から令和元年度までの5年間の水準が妥当と考えているところです。しかし、コロナ禍以後の厳しい財政状況を勘案しますと、大谷美術館として、更なる経費削減を図り、当面は、1億3千万円が補助額の一定の基準になるものと考えております。また、施設改修補助金についてですが、大谷美術館は、平成3年に施設の全面的な増改築工事を行いましたが、竣工から30年を経過し、施設設備の老朽化が進んでいます。美術品を適正に管理する責任があることから、施設改修につきましては、中長期修繕計画を策定しており、年次的に精査を行い、緊急性の高いものから順次改修を行っております。計画当初の改修費用としましては、令和6年度から令和10年度までの5年間で約1億7千万円を見込んでいますが、昨今の人件費や資材単価の上昇により相当上振れしていくものと予想しています。施設改修補助額に一定の基準を設けることにつきましては、年度間での金額的な多寡が生じることから、困難であると考えております。
②上限と定めた補助金額を超過する場合、施設のあり方や運営体制を抜本的に見直すべきと考えますが、市の見解と、考えられる見直し内容をお答えください。
〇答弁要旨〇
令和3年1月より、市と大谷美術館は、より連携強化を図るため、運営の協議等を行う大谷記念美術館運営検討委員会を設置し、基準の運営補助額で、安定的な運営が図られるよう、継続的に協議等を行っているところです。今後、基準とする運営補助額を大きく超過するような事態となる場合につきましては、例えば、経営的な視点で第三者評価を行う等、経営改善に向けた検討を行ってまいります。
③24項目の運営改善策について、実効性のある取り組みを早期に進めるとともに、進捗状況を定期的に公表すべきと考えますが、市の見解をお聞かせください。
〇答弁要旨〇
大谷美術館の安定的な運営に向けては、運営改善策として実施する取組の進捗管理が必要であると考えています。そのため、検討委員会において市と大谷美術館で協議・連携・情報交換を行い、十分意思疎通を図るとともに、運営改善策の取組状況については、定期的に市のホームページで公開するよう取り組んでまいります。
④公設美術館としての役割をふまえ、市民が幅広く参加する、地域に開かれた美術館を目指すべきと考えますが、市の見解と、今後の具体的な取り組み方策をお聞かせください。
〇答弁要旨〇
大谷美術館が定めているミッションの1つに、「地域とつながり、地域とつくる、市民の憩いと交流の場となる美術館を目指す」があります。これは、本市の文化芸術施策の方向性とも一致しており、今後も進めていくべきと考えております。市民が幅広く参加する、地域に開かれた美術館とする取り組みとしては、展覧会を見学する小中学校の児童生徒により理解を深めてもらえるよう、学芸員が、鑑賞ポイントを解説する文化芸術アウトリーチ事業や美術に興味の薄い市民にも美術館の魅力を知っていただけるようSNSを活用した、庭園や屋外作品のPRにも、注力しております。今後の取り組みとしましては、コロナ禍で中止していた、学芸員が、来館者に展示作品の解説を行うギャラリートーク事業を再開・拡充するとともに、地域の福祉施設へのPRを強化することで、市民との接点を広げる機会の充実を図ってまいります。さらに、令和5年度の一部の展覧会では、子どもたちが美術館をより楽しめるよう展示方法などを工夫し、より良い美術教育機会の提供にも、努めてまいります。市といたしましては、これからも、様々な機会を通じて、大谷美術館が市民・地域などとの関係を広げていけるよう支援をしてまいります。
■意見・要望
補助金額の上限については、まず運営補助金について、当面は1億3千万円という水準をお示しいただきました。ここを明示したことは、評価したいと思います。一方で、施設改修補助金については、2028年度までの修繕計画しか策定されておらず、一定の基準を設けることは困難との答弁でした。もちろん、年度ごとに修繕の多寡はあるでしょうし、緊急的な修繕が発生する可能性や、先のことは見通しづらいという事情は理解します。しかし、計画が約5年先までしか存在していないの現状、心もとないと言わざるを得ません。資料5ページをご覧いただきまして、特に収支条件が悪く、基金の取り崩しや補助額の増額を招いた2019年度と2020年度は、支出の上から7行目、基本財産取得支出が計上されています。この内容は、2019年度が受変電設備、2020年度がエレベーターの更新であったと聞いております。これらの大きな支出が、収支を圧迫したのは明らかです。大規模な設備更新や修繕が発生するたびに、補助額を一時的に増やすような場当たり的な対応は健全な経営とは言えず、できる限り、精度の高い、長期の修繕計画を示すよう要望します。
私がこの点にこだわるのは、市が許容する補助額の水準をオーソライズしなければ、質問でも述べた通り、市の負担額が増加し続けかねないからです。文化振興がどれだけ重要な政策であっても、いくらでも補助金を支出します、絶対に今の形態で運営し続けます、というわけにはいきません。必ずどこかに上限があり、その上限を超える際には、抜本的な見直しが必要です。ご答弁では、大谷記念美術館運営検討委員会を設置し安定的な運営が図られるよう継続的に協議を行う。基準とする運営補助額、ここでも運営補助に限定されたことには異議がありますが、これを大きく超過するような事態となる場合には、例えば経営的な視点で第三者評価を行うなど、経営改善に向けた検討を行うとのことでした。まずは、基準額を超えないように努力する、その上でもし超過する場合には、経営改善に取り組む、という方針だと受け止めています。
この経営的な視点、あるいは経営改善の具体的な内容をお聞かせいただきたかったんですが、いま公式な場でご答弁いただけるのは、このくらいが限度ですかね。再質問しようかとも思ったんですが、同じ答弁の繰り返しになりそうなので、控えておきます。抜本的な見直しとしては、例えば、趣ある建物や庭園を活かして、他の用途、集会施設や貸館機能との併用はいかがでしょうか。公益財団法人以外の運営形態も検討しうるのかもしれませんし、土地や建物を資産運用するという発想もあるかもしれません。場合によっては、私が決してそれを望んでいるわけではありませんが、閉館という厳しい判断もあり得ます。そうした可能性を念頭に、シミュレーションを行っておくことは重要な危機管理であり、これこそが経営的な視点ではないでしょうか。経営上の問題を長年指摘され続けながら改善に取り組まず、ついには手元資金がショートして突然の営業終了を招いたリゾ鳴尾浜のようには、絶対にならないでほしい。このことを強く申しあげておきます。
運営改善策については、進捗管理が必要であるという認識をお示しいただいたうえで、取り組み状況を定期的に市のホームページで公開するとのことでした。是非ご答弁の通り進めてください。運営改善策が24個も並べられていると、多岐にわたる取り組みを進めているように見えますが、その内容を精査すると、必ずしも運営改善とは呼べないものも多く含まれていることが判明しました。行政がしばしば用いる「取り組む」「努める」「検討する」といった言葉ではなく、具体的な成果につながる、実効性のある取り組みを進めてください。また、取り組み内容については、常にブラッシュアップを図ってください。例えばSNSでの発信は、私も拝見したところ精力的に行っていらっしゃいましたが、どうしても一方的な発信にとどまる印象を受けました。来館者がシェアしたくなるような仕掛けを検討されてもよいかもしれません。あわせて、開館・閉館のスケジュールについても指摘をしておきます。現在、企画展の回数を絞ったこともあり、展示の入れ替えごとに数週間の閉館期間が発生しています。開館日を増やせばコストも増すというジレンマはありますが、これだけ立派な建物や庭園がありながら、市民の目に留まらない期間があまりに長いことは、大きな損失だと感じます。展覧会の開催期間を今一度検討するとともに、開催期間以外の取り組みについても工夫を求めておきます。
最後に伺った市民参加の促進については、具体的かつ意欲的なご答弁をいただきました。2021年9月定例会で西宮市文化振興財団のあり方について一般質問した際にも繰り返し申し上げましたが、文化振興において、行政が担うべき役割とは何なのか。行政だからこそやるべき事業とはどのようなものなのか。そうした視点を常に忘れず、取り組みを進めてください。